”I don't know. So we observe."
これは、開始直前の記者会見においてワシントンポストの記者から問われた「科学者として、地球外知的生命は存在すると思うか?」という質問にたいする、私(鳴沢)の返答です。
さざんか計画
-- 世界初・全国同時SETI(地球外知的生命探査)観測実験 --
和歌山大学/みさと天文台による電波観測のデータ解析は現在進行中です。主要な電波観測所の解析は終了しています。2009年12月18日現在、地球外知的生命からの電波と考えられるような有意義なシグナルは受信しておりません。
なゆたハイビジョンカメラで光学モニター中の西はりま天文台坂元研究員(11日)
各観測所からの情報を集約する総合本部席(11日)
まずは報道関係の方々へ
・本観測/研究は、エイリアンクラフトの意味でのUFOとはまったく無関係なものです。誤解を招くような報道は、当実験に参加される複数の施設に対して迷惑をかけることになります。くれぐれもご注意下さい。
・「宇宙人」という言葉は、オカルト的なイメージが先行します(学術用語でもありません)。「地球外知的生命」もしくは「地球外文明」などの用語を使って報道していただけますようご協力下さい。
・本実験の目的は「受信」(SETI)のみです。「送信」(METI)は行いません。よって「交信」は致しません。
・地球外文明もアンテナを用いて電波を送信していると想定されます。「さざんか計画」について紹介したあるテレビ番組が、宇宙人の腕から電波を発射しているアニメーションを放送しておりました。一般常識からも考えられるように、私たちもそのような状況は想定しておりません。
最新情報
現在、データ解析続行中です
・2010年テキサスでのアストロバイオロジー研究会で、本計画についての口頭発表が承認されました。(1/25)
・2009年12月22日のワシントンポストに記事が掲載されました。
・2010年春の天文学会でも結果を発表します
実施日程: 2009年11月11日(水)〜12日(木)
観測時間 :21〜26時(JST)
観測実験概要
従来は行われなかった電波による国内での多地点多波長同時SETI観測を行う(電波観測は天候に関係なく実施できる)。この電波観測がメイン目的である。
信号とノイズとの区別を行うための目的で、複数の公開天文台などによる光学モニター観測を同時に行う。具体的には、ターゲット空域のCCDなどによる静止画またはビデオ撮影などを実施する。電波観測にて候補信号が検出された場合、その時刻を連絡し、各天文台等で画像のチェックを行う。これにより、電波源の特定に手がかりを与えることが可能となる。光学モニター観測そのもので地球外知的生命を直接検出することはできない。またエイリアンクラフトの撮影も前提とはしていない。
なお、望遠鏡を直接覗いて天体観測をしていたのは、今から100年以上も前のことであり、そのような観測を行うことは絶対ない。また、光学望遠鏡で電波観測のモニター画面を撮影するという意味でもない。
本実験は、現在構想中の日米(あるいは世界)合同SETIのための共同観測網構築のための目的も持つ。
ターゲット
METAと呼ばれるSETI 観測により天の川に沿った5つの領域から特に強い電波が検出されている。そのうちカシオペヤ座の領域。1989年11月17日13時12分(日本時間)に1420MHz (21cm)でthresholdの約7倍の電波が検出された。しかし、その後は再度の検出はなされていない。2005年3月に東海大学の藤下は、国立天文台水沢観測所の10m電波望遠鏡を用い、この領域を計13時間にわたり8.13-8.60GHzで観測したが、有意義な電波は検出されなかった。
R.A. (2000) 03h07m
Dec. (2000) +58d02'
を中心とした0.5°の範囲。(カシオペヤ座の一部で、きりん座、ペルセウス座との境界付近)
この時期は、西はりま天文台では、23時46分に南中し(北の空)、高度は67°である。
中央赤丸がターゲット領域。カシオペヤ座の一部。西はりま天文台撮影。
拡大写真。ターゲットの左斜め上に二重星団。西はりま天文台撮影。
ターゲット領域。仙台市天文台1.3m鏡にて小石川正弘氏撮影。
f6350mm, R-band, exp.60s, 32.5'×32.5'
白黒反転画像。中央やや西(右)の星は9.6等。上が北。
ハイビジョンカメラによる動画(mp4)
なゆた望遠鏡+高感度ハイビジョンカメラにて撮影。視野15'×9' 鏡像になっています。
フルスケール
META観測とは?
ハーバード大学のポール・ホロウィッツとかのカール・セーガンが映画監督スティーヴン・スピルバーグからの寄付金(10万ドル)によりハーバード大学オークリッジ天文台の26mアンテナで行ったSETI。"Megachannel Extra Terrestrial Assay"の略。1985年から1995年に実施。周波数分解能0.05Hz。積分時間20秒。詳しくは、Horowitz, P. & Sagan, C. 1993 Astrophysical Journal 415, 218を。
参加天文台/観測施設
これだけの数の施設がSETIに関する観測を同時に行うのは世界初である
総合本部 → 鳴沢真也(兵庫県立西はりま天文台)
観測時になゆた望遠鏡制御室の様子をネット中継しました。
電波観測本部 → 藤下光身(東海大学熊本キャンパス)
<電波SETI> ← こちらがメイン観測です。悪天候でも実施できます。
施設名(所在地) アンテナ 観測周波数
東海大学宇宙情報センター(熊本県益城町) 11mパラボラ(写真) 8.3 GHz、5mパラボラ 8.3 GHz
和歌山大学宇宙教育研究ネットワーク/みさと天文台(和歌山県紀美野町)8mパラボラ 1420 MHz
山口大学(山口市)32mパラボラ 8.3 GHz アンテナビーム:4分角
高知高専吾川木星電波観測所(高知県仁淀川町)9素子直交ログペリオディック 30-35 MHz
高橋観測所(京都市)6mパラボラ 1420 MHz
各務観測所(姫路市)八木 1420 MHz(左下)、ディスコーン 31 MHz(右)
松尾無線局(山口県周南市)1mパラボラ1420 MHz、1/2λ 水平ダイポール38.2 MHz
兵庫県立西はりま天文台(佐用町) 八木22 MHz(左)、ダイポール38 MHz(右)。パラボラアンテナに換算すると、それぞれ10m程度と数mほどなります。
計8施設、12アンテナ
<光学サポート>
施設名(所在地) 望遠鏡の口径[cm] 観測手法
名寄市立木原天文台 28 C
仙台市天文台 130 C
福島市浄土平天文台 40 V, 25 C
富山市天文台 100 V
ハートピア安八・天文台(岐阜県安八町) 70 V
かわべ天文公園(和歌山県日高川町) 100 V
和歌山大学 60 C
みさと天文台(和歌山県紀美野町) (180mmレンズ) V
兵庫県立西はりま天文台(佐用町) 200(なゆた望遠鏡) V
姫路市星の子館 15 C
加古川市立少年自然の家(兵庫県) 10 V
にしわき経緯度地球科学館(兵庫県西脇市) 81 V
養父市立天文館(兵庫県) 40 V
山本観測所(岡山県美作市) 10 D
赤磐市竜天天文台公園(岡山県) 40 V
鳥取市さじアストロパーク 103 C 「全国同時SETI観測実験」に協力
島根県立三瓶自然館(大田市) 60 C
久万高原天体観測館(愛媛県久万高原町) 60 C
南阿蘇ルナ天文台(熊本県南阿蘇村) 82 V
さかもと八竜天文台(熊本県八代市)30 D
山田天文台(熊本県氷上町) 20 D, 10.2 D
立川天文台(熊本市) 15 D
影山天文台(熊本市) 25 V
TOKARA中之島天文台(鹿児島県十島村)60 V
計 24施設
V:ビデオ C:冷却CCDカメラ(静止画) D:デジカメ
薩摩川内市せんだい宇宙館(鹿児島県)(リハーサルのみ参加)
人工衛星調査班:飯塚 亮(中央大学)
新天体確認班:内藤博之(名古屋大学)
検出可能な電波
太陽系外文明が以下のような電波を放射していると、計算上は6mのアンテナでも検出が可能である。
60光年以内からの天文学用のレーダー。600光年以内からの20年前にターゲット領域で観測されたMETA信号。2000光年以内からのアレシボMETI級の電波。
実際に太陽系外文明起源と思われる信号が受かった場合は?
IAA(国際宇宙航行アカデミー)が草案・決議し、IAU(国際天文学連合)などでも採択された「地球外知的生命の発見後の活動に関する諸原則についての宣言」に従う予定である。
なぜ、多波長多地点同時観測なのか?
電波による太陽系外文明探査のアイディアを『ネイチャー』に発表したのは、Cocconi & Morrison(1959)である。翌年、アメリカ国立電波天文台のフランク・ドレイクがこの論文とは独立に、実際に観測(オズマ計画 Drake 1960)を行った。SETI(地球外知的生命探査)のスタートである。それ以降、現在までに約100のプロジェクト(そのうち約8割が電波観測)が実施されている。日本でも数グループが電波、赤外線、可視光領域でのSETI観測を実施している。
これらの観測では太陽系外文明が発信源の一つとも考えられるような信号も多数観測されている。
最も有名なものは、オハイオ州立大学が1977年に検出した通称“Wow信号”である。その発信源については現在も議論が継続されている(例えば、Gray & Ellingsen 2002)。また、META観測では、天の川に沿った5つの領域から特に強い電波が検出されている(Horowitz & Sagan 1993)。
しかしながらこれらの信号はいずれも一過性のものばかりであり、太陽系外文明が発信したものであるという確定はなされていない。
再現性がない信号の場合においては、複数の地点による同時多波長観測が発信源特定の手がかりを与える。そこで2005年3月、藤下と鳴沢は、手始めに電波・可視光同時SETI観測を行った。具体的には、藤下が国立天文台水沢の10mアンテナを用いて電波SETI観測を行い、鳴沢が西はりま天文台のなゆた望遠鏡で電波観測領域をCCD撮像し、信号が得られた場合の発信源の特定を試みたのである。SETIに関する観測を電波と可視光線によって同時に実施したのは日本では初の試みであった。10m望遠鏡がMETA5大電波源の一つである「うみへび座領域」を観測中に、実際に60秒ほど継続するパルス状の電波(8.13-8.60GHz)を受信した。しかし、なゆた望遠鏡はたまたまポインティングの途中であったなどの理由により、人工的な電波なのか、自然界の現象なのか、実際に太陽系外文明が送信したものなのかを特定するには至らなかった(詳しくは、Fujishita et al. 2006等)。このために、さらに多数の施設が同時観測に参加することが将来的な課題となった。
2007年11月4日に西はりま天文台で開催されたSETI研究会にて、全国同時SETI観測実験が正式決定した。なお、2009年は、Cocconi & Morrison(1959)の論文が『ネイチャー』に掲載されて50周年にあたる。
関連講演会
★2009年11月23日(月) アストロバイオロジー研究会 講師:鳴沢真也
「日本のSETT観測」(研究者向け) <ーー 終了しました
★2009年3月 日本天文学会春季年会 「2009年全国同時SETI観測実験(本観測)電波部門の報告」
発表者:藤下光身(電波観測本部)
★2009年4月26-29日 Astrobiology Science Conference 2010(アストロバイオロジー研究会) テキサス州
"Project SAZANKA; The Multi-site and Multi-frequency Simultaneous SETI Observation in Japan."
データ解析状況/中間報告
電波観測は両日ともに全観測所において実施できました。
光学サポートの方は、11日は、ハートピア安八天文台、西はりま天文台、姫路市星の子館、竜天天文台、さかもと八竜天文台、山田天文台、影山天文台、南阿蘇ルナ天文台の8カ所で、
12日は、名寄市木原天文台、富山市天文台、さじアストロパーク、島根県立三瓶自然館、さかもと八竜天文台、山田天文台、影山天文台の7カ所で観測ができました。
2009年12月18日現在、和歌山大学/みさと天文台での電波データの解析は進行中です。他の主要な電波観測所の解析は終了しています。解析が終了したデータのなかに、地球外知的生命からの電波と考えられるような有意義なシグナルは受信しておりません。
リハーサル観測
期間:2009年3月28日(土曜日)
観測時間: 21〜26時(JST)
ターゲット:かに座55番星 (55 Cnc)
R.A.(2000) 08h53m
Dec.(2000) +28d20'
V=5.95, G8V, 41光年
この恒星には、5つの惑星があり、そのうち第4惑星は、ハビタブルゾーン内を公転している(Fischer et al. 2008)。
この惑星はガス惑星であるが、衛星があればそこには液体の水が存在する可能性がある。
また、この恒星系の年齢は55億歳であり、時間的には原始生命から知性への進化が起きていてもおかしくはない。
かに座55番星の距離は41光年。天体観測用の出力で送信されているレーダーなら、地球上の8mアンテナでも検出可能である。
なお、ロシアのMETI(Messaging to Extra-Terrestrial Intelligence)であるCosmic-Call 2のターゲットの一つとして、2003年にこの恒星系に向けて電波メッセージが送信されている。
* このリハーサル観測では、なゆた望遠鏡は光学SETI観測を実施した。
リハーサル観測の結果
電波観測からはノイズ以上の意味のある信号はキャッチされなかった(藤下他 2009)。なゆた光学SETIでは明確なレーザー光線の兆候はみられなかった。
光学サポート観測の状況:島根、岡山、兵庫、岐阜、和歌山で観測ができた。北海道は雪、日本海側は雨、九州と四国は曇りで観測ができなかった。姫路市立星の子館では、観測時間中にターゲットの測光観測を行ったが、誤差以上の変光は確認できなかった。
日本天文学会2009年秋季年会において結果報告を行いました。(Y07a)
『さざんか計画』に関するドキュメンタリーで、SETIの入門書です(鳴沢著)。KKベストセラーズ。
タイトルの「72秒」は、Wow信号の継続時間であり、『さざんか計画』の観測とは異なります。
正誤表
ワーキンググループ
鳴沢真也(兵庫県立西はりま天文台公園・主任研究員)→ 連絡先: narusawa@nhao.jp (変更となりました)
藤下光身(東海大学・教授)
井上 毅(明石市立天文科学館・学芸員、日本公開天文台協会事務局)
森本雅樹(国立天文台、東京大学、鹿児島大学・各名誉教授)
参考文献
Cocconi & Morrison 1959 Nature 184, 844
Drake, F. D. 1960 Sky & Telescope 19, 140
Fujishita, M., Narusawa, S., Fujishita, M. & Kawase, T. 2006 Journal of the British Interplanetary Society 59,346
Fischer et al. 2008 Astrophysical Journal 675, 790
Gray, R. H. & Ellingsen, S. 2002 Astrophysical Journal 578, 967
Horowitz, P. & Sagan, C. 1993 Astrophysical Journal 415, 218
鳴沢真也 2009 『望遠鏡でさがす宇宙人』(旬報社) ISBN978-4-8451-1107-7
藤下光身 他 2009 日本天文学会2009年秋季年会 Y07a